転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


141 そんなに驚く事かなぁ?



「考えているばかりでは答えは出ませんわ。これについては何かに溶かして液体にするなどの方法で対処するしかないのですから、ポーションが変質せずに液体にできるものを探すと言う実験を繰り返しませんと」

「ふむ、そうじゃな。確かに考えていた所で結論が出る話でもなかろうて」

 僕とストールさん、それにペソラさんの3人はロルフさんたちの邪魔をしないようにちょっと離れた所でお茶を飲んでたんだ。

 けど、そのお話が終わったみたいだからって、ストールさんが二人に、

「休息なさるのでしたら、此方でお茶はいかがですか?」

 って聞いたんだ。

 そしたら府たちも飲むって返事したもんだから、そこからはちょっとしたお茶会になった。

「ほう、茶菓子はジャンブルか」

「はい。先日いい店を見つけまして、お茶請けにいいのではと持ってまいりました」

 ジャンブルって言うのは小麦粉に砂糖と炒った豆ををいれて焼いたちょっと硬いクッキーみたいな物なんだ。

 この世界ではバターはとっても高いしベーキングパウダーもまったく知られて無いから、焼き菓子と言うとどうしてもこんな硬い物になっちゃうんだよね。

 でもね、カリカリぽりぽりとした食感で、これはこれで美味しいんだよ。

 だから僕や甘い物が好きそうなペソラさんはストールさんに出してもらったジャンブルをニコニコしながら食べてたんだよ。

「ふむ。ジャンブルは確かに美味じゃが、少々硬いのがのぉ。同じ様なもので、もっとやわらかい物があれば良いのじゃが」

「それは難しいでしょう。小麦以外ではとうもろこしの粉などを使った菓子もありますが、やはり焼くと硬くなってしまいますから」

 だけど、どうやらロルフさんからするとこのお菓子はちょっと硬くて食べにくいみたいなんだよね。

 ロルフさんってもしかして歯が弱いのかなぁ? このカリカリしたのが美味しいのに。

 僕はそんな事を思いながら黙ってお菓子を食べてたんだけど、そしたら不意にストールさんがこっちを見たんだよね。

 そしてこんな事を言ったんだ。

「ノートンがルディーン様から教えていただいたパンケーキをお出しできればよかったのですが、わたくしは旦那様にお出しできるほどの料理の腕は持っていないもので」

「うむ。確かにあの菓子はとてもやわらかく、美味じゃったのぉ」

 どうやらロルフさんは、やっぱり固いお菓子よりやわらかいお菓子が好きみたい。

 話に出たパンケーキの事を思い出してるのか、ちょっと笑顔になったもん。

「パンケーキ?」

 と、そんな会話に興味を持ったのは、甘い物大好きペソラさん。

「ルディーン様」

「ペソラさん、様はやめて」

「えっ? あっ、はい。ではルディーンさん。そのパンケーキと言うのはどんなお菓子なのですか?」

「えっとね、ふわふわした甘いパンみたいなお菓子だよ。ストールさんは作れないって言ったけど、結構簡単に出来るんだよ」

 ペソラさんはパンケーキと言う聞いた事が無いお菓子の話題に目を輝かせながら質問してきたんだけど、僕がそれにこう答えると今度はバーリマンさんがこの話に入ってきたんだ。

「へぇ、ルディーン君。そのお菓子は誰でも簡単に作れるの? ロルフさんがあんな顔をするところを見ると、かなり美味しいお菓子のようだけど」

「うん。材料さえあれば簡単だよ」

 そう言って僕が材料の名前を並べたら、そのうちの一つにバーリマンさんが反応した。

「ああ、なるほど。前にルディーン君が言っていた食器洗いの粉を使ったお菓子の事なのですか」

「食器洗いの粉!?」

 どうやらバーリマンさんは前に僕が話した事を覚えてて、なるほどって頷いたんだけど、その話を聞いて今度はペソラさんがびっくりしちゃったんだ。

 でもそりゃそうだよね。

 食器を洗う粉って言われたら、何か石鹸を使って料理するみたいだもん。

 だから僕は、ちゃんと違うんだよってペソラさんに教えてあげる事にしたんだ。

「あのねぇ。ベーキングパウダーモドキは確かに食器を洗ったりお掃除をしたりする時に使うけど、石鹸とかと違ってちゃんと食べられる材料だけで作られてるんだ。だからお料理に入れても大丈夫なんだよ」

「そう……なんですか?」

 それを聞いたペソラさんは半信半疑。

 そっか。お話だけじゃ信じられないかもしれないね。

 だから僕は、実際に食べられるって事を証明することにしたんだ。

「バーリマンさん。ストールさんがうまくできないからロルフさんに作ってあげられないって言ってたけど、材料はここにあるの?」

「ええ。奥の厨房に行けばあるわよ。ルディーン君の言うベーキングパウダーとか言うのも、食器荒い用のものがあるはずよ」

 部屋のお掃除用だとちょっとやだけど、厨房においてある食器洗い用のなら大丈夫そうだね。

「そっか。ならさ、僕が今から作ってもいい?」 

「えっ? ルディーン君が作るの?」

「うん。村では僕が作ったのが一番美味しいからって、みんながうちに食べに来るんだよ」

 バーリマンさんにちょっと驚かれちゃったけど、ちゃんと作れる事を話したらいいよって言ってくれたんだ。

 だから僕はみんなを連れて、錬金術ギルドの奥にある厨房へ向かった。


 ギルドの厨房だからロルフさんのお屋敷とかと違ってそんなに大きくなんだけど、それでも僕のお家より広くて立派な厨房でびっくり。

 ちゃんと魔道コンロもあるし、水が出る魔道具まであるんだよ。

 それにあれは。

「わぁ、魔道冷蔵庫がある。すごいや」

「そうでしょ。ギルドマスターが入れてくれたのよ」

 そう、そこにあったのは魔道冷蔵庫。

 僕が作った簡易冷蔵庫じゃないよ。ちゃんと氷の魔石で中全体を冷やす事ができる本物の魔道冷蔵庫だったんだ。

 ペソラさんはその魔道冷蔵庫を前に、にんまり。きっとこの冷蔵庫は錬金術ギルドの自慢なんだろうね。

 でも、魔道冷蔵庫は魔道コンロなんかよりよっぽど高いから、これがあるってだけで自慢したくなる気持ち、解るなぁ。

「あら、ルディーン君のお家にも魔道冷蔵庫はあるんじゃないの?」

 ところがバーリマンさんがこんな事を言い出したもんだから、ペソラさんはびっくり。

「僕のうちにあるのは簡単な奴だもん。こんな凄いのとは違うよ」

 でも僕のお家にも同じ物があるなんて思われたら大変だから、慌てて違うよってバーリマンさんに言ったんだ。

 ところが、それを聞いたペソラさんは、

「簡単な冷蔵庫って、もしかしてついこの間発表された新技術を使った魔道冷蔵庫ですか? でもあれ、商業ギルドでもまだ数十台しか販売して無いから、そんなに簡単に手に入れられないはずなのに」

「商業ギルドで売ってるやつ? ううん、違うよ。うちにあるのは僕が作った奴だよ」

「えっ? 作った? 誰が?」

「だから僕が作ったんだってば」

 僕が作ったって教えてあげてるのに、ペソラさんは何か変な感じでよく解んないみたいなんだ。

 だから僕は助けを求めてバーリマンさんのほうを見たんだよね。

 だってペソラさんはこの錬金術ギルドの人で、バーリマンさんはそのギルドマスターだもん。

 だからきっと、ペソラさんにきちんとお話してくれると思ったんだけど……。

「ペソラ、ルディーン君はね、今あなたが言った新型魔道冷蔵庫の特許取得者よ」

「特許……取得者?」

「ええ。そう言えばあなたもこのギルドの職員なんだからわかるでしょ。あの新型魔道冷蔵庫の開発者って事よ」

 バーリマンさんからそう言われたペソラさんは物凄くびっくりしながら僕とバーリマンさんの顔を何度も見比べた後、

「そうと走らず魔道冷蔵庫の自慢などしてしまい、大変失礼いたしました。ルディーン様」

 そして最後には僕に向かって深々と頭を下げたんだ。


142へ

衝動のページへ戻る